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浦和地方裁判所川越支部 平成3年(ヨ)32号 決定

主文

一  本件各申立をいずれも却下する。

二  本件申立費用は債権者らの負担とする。

理由

第一  当事者の求める裁判

一  債権者ら

1  主位的申立

(一) 債務者は、別紙第一物件目録記載の土地上の立木を伐採し、同土地の形状を変更するなどして、同土地内でゴルフ場建設工事をしてはならない。

(二) 本件申立費用は債務者の負担とする。

2  予備的申立

(一) 債務者は、前記土地において、一切の農薬及び化学肥料(窒素、リン)、地盤凝固剤、合成界面活性剤の使用をしてはならない。

(二) 債務者は、栽培の過程で農薬を使用した芝草や樹木を同土地内に搬入して植栽してはならない。

(三) 1の(二)と同じ

二  債務者

主文と同旨

第二  争いがない事実等

一  当事者

1  債権者らは、別紙第二物件目録記載の飯能市小岩井に所在する学校法人自由の森学園(学園長遠藤豊。以下「学園」という。)の生徒ら、その父母及び教職員であり、別紙債権者目録記載のAの債権者は学園敷地内の寮に居住する生徒、A’の債権者は学園の隣接地に居住する生徒、Bの債権者は学園に通学している生徒、B’の債権者は通勤している教職員、Cの債権者は生徒の父母である(平成四年七月一〇日付債権者名簿、一九九三年六月四日付在学証明書、同年度生徒名簿、審尋の全趣旨)。

2  債務者は、昭和六〇年五月一日にゴルフ場経営等を目的として設立された会社であり、飯能市小岩井及び苅生地区に所在する別紙第一物件目録記載の二三七筆の土地上に、「西武飯能カントリー倶楽部」なる名称のゴルフ場を開発造成中である(以下、この造成地を、「本件造成地」という。ただし、同目録のうち、七筆の土地がその造成区域に含まれるかどうかは、争いがある。)

二  本件ゴルフ場計画の造成・開発手続

1  債権者は、右造成事業につき、昭和六二年五月二七日埼玉県知事からいわゆる立地承認を受けた。

そして、埼玉県環境影響評価に関する指導要綱(《証拠略》)に基づき、本件ゴルフ場造成に関する環境影響評価準備書の公告・縦覧、債務者の地元説明会の開催、住民意見書の提出、同意見書に対する債務者の見解書の提出、公聴会開催の公告・開催、環境影響評価技術審議会開催及び環境影響評価書の公告・縦覧等の手続が行われて、平成元年四月二五日、右環境影響評価書の縦覧期間の満了をもつて環境アセスメントの手続が終了した。

かくて、債務者は、同年六月一六日、埼玉県知事から本件ゴルフ場造成に対する開発許可(都市計画法二九条、森林法一〇条の二)を受け、同年九月一二日その工事に着手した。

2  その後、債務者は、平成二年一二月二八日開発区域の削減に関する計画変更の許可を、次いで同三年一一月六日に、進入道路、調整池及びコースレイアウトの各変更に関する計画変更の許可を受けた(《証拠略》)。

(後記三、四は、いずれも最終の変更後の計画による。)

三  本件ゴルフ場造成計画の概要

1  土地利用計画 (別紙図面(一)《証拠略》)

ゴルフ場施設(二七・〇三パーセント)

ゴルフコース(一八ホール) 二九万〇二〇〇平方メートル

クラブハウス敷地 六〇〇〇平方メートル

駐車場 四五〇〇平方メートル

進入道路 一万一八〇〇平方メートル

管理道路 一万九四〇〇平方メートル

水路・調整池 二万九五〇〇平方メートル

計 三六万一四〇〇平方メートル

緑地 (七二・一八パーセント)

残存樹林 六二万六一〇〇平方メートル

造成樹林 二二万〇一〇〇平方メートル

回復緑地 一万三一〇〇平方メートル

法面緑化地 一〇万五九〇〇平方メートル

計 九六万五二〇〇平方メートル

その他 (〇・七九パーセント) 一万〇六〇〇平方メートル

合計 (一〇〇パーセント) 一三三万七二〇〇平方メートル

2  造成計画

本件造成地の地形は、標高一六〇ないし三〇〇メートルの起伏のある地形で、全面積の六九・五パーセントが傾斜一五度以上の傾斜面となつている(《証拠略》)などのため、当該地域の山林を伐採したうえ、次のとおりの造成工事が計画されている。

(1)土工計画 (別紙図面(二)《証拠略》)

造成土工量は、切土、盛土それぞれ約三一八万立方メートル(計画変更前は各約三八〇万立方メートル)である。最大切土高は五五メートル(七番ホール、変更前は八番ホールの三八メートル)、最大盛土高は三五メートル(五番ホール、変更前は同ホールの四九メートル)となつている。

(2) 法面の形状

切土法面勾配は、原則として一対一(角度にして四五度)、流盤関係の場合には、一対一・二(《証拠略》)とし、垂直高は三五メートルごとに幅一・五メートルの小段(犬走り)を設ける。

盛土方面勾配は、一対二(角度にして約二七度)とし、垂直高五メートルごとに幅二メートルの小段を、さらに一五メートルごとに一〇メートルの広場を設ける。

(3) 調整池(別紙図面(一)、C-1ないしC-14、C-16)谷筋一五箇所に排水池を設置し(変更前は一六箇所)、雨水の下流に対する影響を防止する。

四  農薬及び化学肥料の使用

1  債務者が本件ゴルフ場開設により本件造成地に使用を予定している農薬・その使用量・使用場所・使用月・毒性等は、別紙「農薬の使用計画表」及び「施肥計画表」記載のとおりである(《証拠略》。この使用予定農薬を、以下「本件使用農薬」という。)。

2  ゴルフ場で農薬を使用するにあたつての通達、行政指導(以下、《証拠略》による。)。

(一) 水質保全について

(1) 農薬の使用については、昭和六三年八月二五日農林水産省農蚕園芸局長通達「ゴルフ場における農薬の安全使用について」(六三農蚕第五三五五号)によつて、農薬取締法の適用を受けることになり、同法に定められた登録農薬の使用、危害防止対策の徹底等が行政により指導されてきている(《証拠略》)。

そして、農薬使用による水質保全のため、いずれも、各都道府県知事の指導指針値として、イ「ゴルフ場使用農薬に係る水道水の安全対策について」(平成二年五月三一日衛水第一五二号厚生省生活衛生局水道環境部長通達。同三年七月三〇日衛水第一九二号通達により一部改正)は、水道水中の農薬の濃度についての暫定水質目標値を定め、ロ「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指針について」(平成二年五月二四日環水土第七七号環境庁水質保全局長通達。同三年七月三〇日環水土第一〇九号通達により一部改正)は、「ゴルフ場排水口」における排水の水質指針値を定めている。

右の各対象とされている農薬は、各改正前はいずれも二一種類で、改正後は三〇種類である。

さらに、平成四年一二月二一日右ロの水質指針のうち、フエニトロチオン(スミチオン。以下「スミチオン」という。)のそれが0.1ミリグラム/リットルから0.3ミリグラム/リットルに改正された(《証拠略》)。

(2) 埼玉県においては、右各通達を受けて、「埼玉県ゴルフ場農薬安全指導要綱」(昭和六三年一二月一六日決裁)を定め、その後前記各通達の改正に伴つて、平成二年九月二七日、同三年一一月六日の二回にわたつて右指導要綱の改正をしてきた。

同要綱に定める水質目標値は、別表「排出水に係る水質目標値」(《証拠略》)記載のとおりである。

(3) 本件使用農薬に対する同要綱に定める水質目標値は、別表「使用予定農薬の最大流出濃度と水質目標値一覧表(《証拠略》)」の{2}、{4}各欄のとおりである。

(二) 大気につき

国及び埼玉県とも、現在農薬の大気濃度の基準等を定めてはいないが、横浜市公害対策局において、「ゴルフ場協定における大気濃度基準値について」と題して、前記((一)、(1)のロ)の環境庁水質保全局長通達による水質指針値に基づいて、農薬三〇種について、次の計算式で計算した値をもつて、「ゴルフ場区域内の敷地境界における大気中の濃度基準値」としており(《証拠略》)、その基準値は、別表「大気及び水質の基準値」(以下「横浜市基準値」という。)記載のとおりである。

計算式

水質指針値×2リットル(人の1日の飲水量)÷15立方メートル

(人の1日の呼吸量)=大気中の濃度基準値(ミリグラム/立方メートル)

五  調整池からの排出水と浄水場

右排出水は、本件造成地の北側に、東西に流れる入間川に流入し、それが荒川に合流するところ、本件造成地に沿つた入間川流域には小岩井浄水場、本郷浄水場があり、さらに、その下流の入間川、荒川の水を水道水とする浄水場は、埼玉県南と東京都に合計五か所ある(《証拠略》)。

第三  争点

本件差止請求の理由は、(1)アセスメント手続等の違背、(2)自然環境の破壊、(3)土砂崩壊・調整池の決壊ないしその下流河川の洪水による健康等被害の蓋然性、(4)農薬、化学肥料等の散布、使用等によつて生ずる大気・水質汚染を原因とする健康等被害の蓋然性であるところ、右各理由すべてと、その請求適格(ただし、人格権の点は除く。)に争いがある。

(債権者らの主張)

一  アセスメント手続の違背等

(関係債権者は、債権目録記載の全債権者)

1 債権者らは、後記のとおり、本件ゴルフ場の造成や農薬等の散布、使用によつて権利を侵害されるのであるから、埼玉県知事は、債権者らに対しては、形式的に、環境影響評価準備書・同評価書の公告、縦覧等の手続を実施するだけではなく、適切な連絡方法によつて右公告・縦覧、説明会・公聴会の開催等を熟知させるべきであり債務者にも同様の義務がある。しかるに、知事及び債務者は、これを怠つて、単に飯能市の広報にこれらの事項を掲載したにすぎなかつたため、債権者らにおいて、これを知らないままアセスメント手続が終了してしまつた。

2 環境影響評価書には、(1)「環境保全上特に留意する施設」として学園はじめ本件ゴルフ場周辺の教育施設を揚げながら(《証拠略》)、「特に留意する」内容を具体的に説明していない、(2)風配図の記載(《証拠略》)は、飯能市街地を測量地点としたものであつて、農薬が学園の所在する谷の部分に滞留する危険性を隠している、(3)農薬による大気汚染を軽視している(《証拠略》)、(4)景観破壊につき偽りがある、など不十分、虚偽の点が多数あり、これは前記指導要綱に違反するものである。

二  侵害行為

(関係債権者は、後記1については債権者目録記載の全債権者、2、3については、A、A’、B、B’の債権者、4については、A、A’、B、B’の債権者、5については、A、A’、B、B’の債権者と<1>、<2>、<3>の債権者)

1 自然環境の破壊

本件造成地は、県立武蔵野自然公園(普通地域)に含まれており、債権者らや飯能市民にとつて、豊かな自然を享有するためにも、また、水源の涵養、自然災害発生の防止のためにも欠くべからざる貴重な財産である。

とくに、学園は、右の豊かな自然の中で、自然との共生を教えることを基本的理念とし、他方、この教育目的を大前提として債権者である父母は子供らを入学させ、また、債権者である生徒はここに学んでいるのである。

しかるに、債務者は、本件ゴルフ場の造成のために、後記のとおり広大な面積の森林を伐採し、また、農薬、化学肥料等を散布ないし使用することによつて、大気、水等を汚染させ、右の自然を破壊しようとしている。

2 切土、盛土等による土砂崩壊の危険性(《証拠略》など。これらのうち、第九九号証以外の証拠は、後記3にも共通)

本件ゴルフ場の造成は、前記(第二の三)のような大規模な工事、地形及び地質(秩父古生層で断層や破砕帯が多い。)等からすれば、地震や豪雨の際には切土・盛土の法面が崩壊して土砂崩れが発生するおそれが高い。

とくに、本件造成地付近には、名栗断層、越生断層、立川断層などの活断層があつて、近い将来、その再活動によつて直下型地震が発生する可能性がある(最近、首都圏において今後一〇年以内の直下型地震の発生が相当の確率で予想されるとの研究もある。)。

3 本件ゴルフ場における調整池決壊等の可能性

(一) 調整池の堰堤の安全性に問題がある。

(1) 堰堤ごとの支持力、剪断強度の調査、検討が不十分である。

とくに、学園敷地から至近距離にある調整池C-4の基礎地盤は風化がすすみ、亀裂の多いことが明らかであるのに、単にN値(基礎地盤の支持力判定のための一資料であり、この値が高いほど支持基盤として良好といえる。)が五〇以上あるから、安全である(この値自体疑わしい。)として、基礎地盤の適正を示す値としてのコア採取率、最大コア長、P・Q・Dを全く明らかにしておらず、また、剪断強度についても、具体的データではなく、推定値のみから、「堤体のすべりは生じない。」と判断しているにすぎない。

(2) 調整池C-9、C-10につき、その各堤体にクラックが発生し、かつ、いずれもコンクリートの縦と横の各接合部分に分離が生じた(《証拠略》)が、その主たる原因は、基礎地盤の剪断抵抗力及び摩擦抵抗力の不足に起因するものであり、調整池C-4を含む他の調整池の地盤の地質も、右C-9、C-10と同種であるから、そのいずれについても、右各抵抗力が不足している蓋然性がある。

そして、クラックが発生すれば、調整池堰堤の支持力が大きく減少し、容易に崩壊しやすい状態になる。

(二) 調整池の調整容量の不足

調整池の設計調整容量は、計画堆砂量と洪水調整容量との合計量を超えるものでなければならない(もしこの合計量以下であれば、下流に洪水が生ずる。)。

債務者の変更計画(平成三年一一月六日認可)による各調整池の設計調整容量、計画堆砂量及び洪水調整容量は、別表「調整池容量に関わる数値の整合性のまとめ」(VA1,VB,VC,VA1+VB+VC,V欄)のとおりである(なお、《証拠略》の「調整池別調整容量・ダム高一覧表」参照)ところ、債務者が実際に完成した各調整池の洪水調整容量が大幅に下回わるものであつたため、債務者は、現在、右の表の「補正工事後調整池容量」欄記載のとおり補正工事をなす旨主張している。

しかるところ、以下に、調整池C-4に関して説明するとおり、右変更計画及び補正工事による、各堆砂量・各洪水調整容量のいずれについても、これが不十分であつて、調整容量は、実際の必要量に充たないことが明らかである。

(1) 債務者の計算

イ 調整容量

変更計画のもの 一万二七〇〇立方メートル

補正工事のもの 一万二六三七立方メートル

ロ 堆砂量

変更計画のもの 二七四二立方メートル

補正工事のもの 三二六四立方メートル

ハ 洪水調整容量

変更計画のもの 八七三三立方メートル

補正工事のもの 九三七三立方メートル

(2) 堆砂量につき

イ 堆砂量の算定については、「砂防指定地及び地すべり防止区域内における宅地造成等の大規模開発審査基準(案)」(《証拠略》。以下「大規模開発審査基準」という。)、「大規模宅地開発に伴う調整池技術基準(案)」(《証拠略》。以下、「調整池技術基準」という。)、「開発行為の許可基準の運用細則について」(《証拠略》。以下、「許可基準運用細則」という。)があるが、右調整池技術基準(一二条の解説)によると、設計堆砂量の算定については、土地造成面積一ヘクタール当り、年、七〇~二四〇立方メートルとし、「土地造成が比較的広範囲にわたり同時施工されるときは、上限値をとる」ものとされているところ、本件ゴルフ場は、土地造成が七〇・〇五ヘクタールにわたり同時施工されるのであるから、まさに、右の場合に該当し、計画堆砂量としては、右上限値である年・一ヘクタール当り二四〇立方メートルを基準として算定すべきであつて、これによると、調整池C-4の堆砂量は三二九〇・四立方メートルとなる。

算式

240立方メートル×4.570ヘクタール(C-4の造成面積)×3(工事期間3年間)=3,290.4立方メートル

ロ なお、前記「許可基準運用細則」に準拠するなら、本件ゴルフ場の地形、地質等を考慮すれば、調整池C-4の設計堆砂量は、年・一ヘクタール当り四〇〇立方メートル(上限値)を基準にして算定するのが相当であつて、これによると、前記イと同様の計算式により、五四八四立方メートルとなる。

(3) 洪水調整容量につき

調整池の洪水調整容量の算定の基礎係数としていわゆる「流出係数」が問題となるところ、債務者はこれを〇・六として前記洪水調整容量を算定したが、本件造成地の地形、地質(急峻な山地で、浸透能力は小)に鑑み、前掲、許可基準運用細則(十三)と「日本道路協会・排水工指針」(《証拠略》・資料1、一一頁の表1の「急峻な山地」の係数)により、右流出係数は、〇・七五を採用すべきであり、これによると、前記調節容量は一万〇九一六立方メートルとなる。

算式

8733(債務者算定の洪水調節容量)÷0.6(債務者採用の流水係数)×0.75(債権者主張の係数)=10,916立方メートル

(4) 以上によると、十分な調整容量は確保されていないことが明らかである。

前記(2)イの堆砂量三二九〇・四立方メートルによるとしても、これと(3)の洪水調整容量一万〇九一六立方メートルを合算すると、一万四二〇六・四立方メートルとなり、前記(1)イの各調整容量一万二六三七ないし一万二七〇〇立方メートルを (5) 調整池の調整機能に欠陥があつて、設計どおりの調整容量を確保できない。すなわち、

平成三年八月二〇日台風一二号による降雨(二四時間降雨量一一九ミリメートル)によつて、調整池C-10が調整機能を失つて上部から水が流出した(《証拠略》)。

(三) 調整池の周辺地域の土砂崩壊等の危険

(1) 周辺地域の斜面崩壊等の危険が増大する。

債務者のボーリング調査の結果によれば、本件ゴルフ場の表層地盤の一部である、債務者の地質調査地点のNO.6、NO.7の地域には礫混り粘土が含まれている(《証拠略》)が、もしこの土が多量の水を含めば、わずかな衝撃を与えただけで流動状態になる。したがつて、かかる土層が調整池の周辺に存在していると、降雨による調整池の湛水によつて、水位の上昇で右土層も多量の水を含むこととなつて、斜面崩壊が発生しやすくなるし、したがつてまた、これより下にある調整池にも影響を及ぼしてこれを決壊させることになる。

(2) 前記許容放流量は、調整池下流の河川の流過能力をもとに算定されるところ、調整池C-4下流の学園敷地に近接する流過能力の最小となる地点では、その流過能力が秒当たり一・八四一立方メートルであり(《証拠略》)、これは、調整池の余水吐から百年確率の雨を流過する能力である秒当り約二・四立方メートル(《証拠略》)を下回わるものであつて、下流地域が危険である(《証拠略》)。

4 大気汚染

(一) 本件使用農薬は、いずれも人体に重大な被害を及ぼすものであつて、いわゆる使用基準はなんら安全基準とはいえない(《証拠略》など)。

(二) 学園は、周囲約二七〇度にわたつて、前記(第二、三の2)のとおり標高一六〇ないし三〇〇メートルの山並みの斜面に造成される本件ゴルフ場に囲まれた盆地に所在するのであるから、その中の大気は、ゴルフ場の地表から山の稜線まで接地気温逆転層が形成され、あたかも蓋(リッド)をした状態となり、山越えをすることなく盆地内に滞留する。したがつて、債務者の散布する農薬も右大気中に広範囲に拡散、揮発してエーロゾルとなつて浮遊し、これを呼吸する生徒、教職員に対して、次のとおり、その健康、身体に重大な被害を及ぼす蓋然性が高い(《証拠略》など)。

(三) 本件ゴルフ場で使用される各農薬の気中濃度とその経気量(《証拠略》)

(1) 各農薬の気中濃度

右濃度は、イ農薬の月別使用量と各有効成分は別紙「農薬の使用計画表」(第二、四の1)記載の量、ロ散布農薬の気中移行率は九〇パーセント(《証拠略》)、ハ拡散体積は3×10(8乗)立方メートルとして、次の算式によつて算定すると、別表「農薬の大気中濃度等」(《証拠略》による。)の気中濃度欄のとおりになる(拡散体積は、本件ゴルフ場の尾根部分に外接する平行四辺形を底面-一辺の長さは二〇〇〇メートルと一五〇〇メートル-とし、高さ一〇〇メートル--尾根の標高と学園との標高差-として算定。2000×1500×100=3×10(8乗)立方メートル)

算式

気中濃度=各農薬の月別使用量×各有効成分/100×90/100/拡散体積

(2) 各農薬の経気量

右各気中濃度に基づき、体重五〇キログラムの人の呼吸量は一日当り一五立方メートルとして算定すると、各農薬の経気量は、右の表の経気摂取量欄記載のとおり極めて多量になる。

算式

気中濃度×15÷50

(四) 本件ゴルフ場で使用される有機燐系殺虫剤スミチオンは、体重一キログラム当り6×10(5乗)ミリグラムという極く微量で、スギ花粉症によるアレルギー性結膜炎を増悪させ、免疫系、神経系などにさまざまな慢性中毒症を進行させることが実証されている(《証拠略》)。

したがつて、前記スミチオンの経気量(0.003ミリグラム/キログラム/day)は、右実験単位の五〇倍にも達するものであつて、右債権者らの健康、身体に重大な被害を発生させることは明らかである。

(なお、地表付近で蓋をした状態も頻出するので、例えば、学園の教室一階の天井の高さでこの状態が発生したときの気中濃度は、前記(三)、(1)の約三五・七倍となり、その場合の経気摂取量は0・103ミリグラム/キログラム/dayにも達する。《証拠略》)

(五) 学園の北側には、現在営業中の「飯能グリーンカントリークラブ」が、西側には営業間近かの「東都飯能カントリークラブ」が所在する。したがつて、右各ゴルフ場と本件ゴルフ場が散布する農薬が複合して大気の汚染度を高める。

5 水質汚染について

(一) 農薬、化学肥料等の散布、使用

(1) 農薬の散布

イ 債務者が遵守するという水質目標値(前記「使用予定農薬の最大流出濃度等一覧表」{5}欄)は、なんら健康、身体の安全性を保障するものではない(とくに《証拠略》など)し、かつ、債務者に右目標値の遵守を期待することはできない。

ロ 例えば、スミチオンの経口摂取量によつても明らかである(《証拠略》)。

債務者が遵守するという前記水質目標値に基づき、体重五〇キログラムの人の一日の飲水量を二リットルとして算定すると、各農薬の経口摂取量は、前記の別表「農薬の大気中濃度等」の経口摂取量欄のとおりになる。

算式

水質目標値×2÷50

右のうち、スミチオンの経口摂取量は、0.004ミリグラム/キログラム/dayであつて、前記(4、(四))実験値6×10(5乗)ミリグラム/キログラム/dayの約六・七倍に達するのである。

(2) 化学肥料の散布

債務者の散布する窒素肥料は、土壌で分解されてアンモニア態となり、次いで亜硝酸態、硝酸態となつて、河川、地下水を汚染し、これを経口摂取することにより人体に被害を及ぼす。

過剰な窒素やリンが河川に流入すると、河川の富栄養化をもたらし、富栄養化の進んだ水道源水においては、その浄化のための塩素を大量に投下することによつて当然発癌物質であるトリハロメタンの量も増加することになる。

(3) 地盤凝固剤及び合成界面活性剤の使用

本件造成区域内の地質(堅いが脆い。)からみて、地盤凝固剤使用の必要性があると思われ、また、合成界面活性剤が使用される。地盤凝固剤は、神経障害等を発症させる(《証拠略》など)。そして、農薬(乳剤)に含まれ、またクラブハウス内で使用される洗剤に含まれている合成界面活性剤には催奇性、発癌性がある。

(二) 以上のように農薬等によつて汚染された水は、調整池に集められてその排出水となつて、また、これに集水されずに地下に浸透して地下水となつて(《証拠略》)、いずれも入間川に流入して、入間川及びこれと合流する荒川を汚染する。この汚染された水は、小岩井浄水場のほか、本郷浄水場など六か所の浄水場に取水されて、それぞれ市民に配水される(第一の5)。

小岩井浄水場については、その取水口が本件造成地の上流に所在するため、右汚染水はこれに集水されないが、散布された農薬が蒸散又は飛散してその露天プールに落下してこれを汚染することになる。

学園の生徒、教職員である債権者目録記載のA、A’、B、B’の債権者らは小岩井浄水場の水を、<1>、<2>、<3>の債権者らは本郷浄水場など六か所の浄水場の水をそれぞれ飲料水としているので、債務者の右農薬等の散布、使用は右債権者らの身体に被害を及ぼす蓋然性がある。

(三) 前記の他の二か所のゴルフ場においても、右の農薬等を散布、使用するので、水質についても複合汚染が発生し、被害を増大する。

三  被保全権利

債権者らは、それぞれ次のような権利にもとづき、債務者の侵害に対しては、これが予防、排除を求めることができる。

1 債権者である生徒は、生命、身体或いは健康を害されないとする「人格権」のほか、自然の恵沢を享受できるとする「自然享有権」ないし「環境権」(後二者の根拠は憲法一三条、二五条。自然享有権については、さらに自然法的な権利ともいえる。)、及び学園の教育方針である自然との共生を学ぶことに不可欠な豊かな自然に恵まれた学習環境を奪われない権利である。学習環境権(右環境権と憲法一三条・二六条一項を根拠とする学習権にともとづく。)による。

2 債権者である教職員は、右の「人格権」及び「自然享有権」、「環境権」による。

3 生徒の父母である債権者は、生徒の前記学習環境権を実現させることを内容とする教育権(その根拠は、憲法一三条、二六条一項又は右債権者と学園が締結した、自然との共生を教育内容とする趣旨の在学契約)による。

さらに、右父母のうち、<1>、<2>及び<3>の者は、人格権にもよる。

四  仮処分の必要性

本件造成により自然が破壊されれば、もはやその回復は不可能であり、また、造成に伴つての土砂崩壊、調整池の決壊や農薬、化学肥料等の散布等によつて、学園の教師、生徒である債権者の生命、身体に被害を発生する蓋然性が高く、したがつて、直ちに本件造成を差し止める必要がある。

(債務者の主張)

一  アセスメントについて

右は、埼玉県の指導要領(《証拠略》)どおり実施されたものであり、なんら不当な点はない(《証拠略》)。学園の関係者計八名が昭和六三年一〇月二〇日付債務者宛の意見書を飯能市役所に提出しており、同年一二月二三日には、公聴会において公述人から本件造成事業による環境への影響について広範囲にわたる意見が陳述された。これらの意見の内容は、債権者らの本件主張の内容を含むもので、学園の生徒らに対する具体的影響についても言及するものであつて、債権者らの立場は十分に守られている。

環境影響の予測・評価には、なんら不当、虚偽の点はない。

二  侵害行為について

1 自然環境の不当な破壊はない。

小岩井地区民及び関係地権者は、荒廃する山林にかえて、地区の環境整備のために本件ゴルフ場の誘致を求めたものであり、(《証拠略》)、その意向に基づいて設立された債務者においては、環境影響の予測・評価において自然、生態系に十分な配慮をなし、緑野・森林の保全やその回復、自然水系の保存等の対策を推進しているのである。すなわち、本件造成は、右地域住民の求めるよりよい環境に調和するものである。

2 土砂崩れの危険性はない。

債務者は、本件造成地の地形、地質を十分考慮し、各種規則、行政指導に従つて、前記(第二、三の2)のとおり切土、盛土工事の設計をし、かつ、実際の施行に際しては、想定地盤条件を確認しながら、安全性が確保できるように工事をした(《証拠略》)。

(1) 切土の法面

本件造成地の土質は、ボーリング調査(切土部四か所、盛土部五か所。《証拠略》)の結果「軟岩」と認められたところ、かかる土質に対する勾配については、都市計画法施行規則二三条(《証拠略》と前記「許可基準運用細則」九項(《証拠略》)において、六〇度以下(擁壁を設置しない場合)と定められているが、本件ではこれより緩勾配(四五度)とした。切土の小段は、右運用細則八項と、一般的に認知された技術基準である「道路土工、のり面工・斜面安定工指針」(《証拠略》)によつている。

(2) 盛土法面

右運用細則八項に定める、勾配三五度(約一対一・五。盛土高がおおむね一・五メートルを超える場合)以下、なる基準よりも緩い勾配(約二七度)とし、また、小段は右運用細則同項イと、前記斜面安定工指針(3-2-1の(3))に従つている。

(3) 安全性の検討

イ 安定計算

切土、盛土の安定性の検討は、切土部については、長大切土法面となるNO.1ホール南側斜面一か所で、盛土部については、C-3他二か所の各調整池に近接した高盛土部で、それぞれこれを実施した(《証拠略》)。

その計算方法は、一般的技術基準である「建設省宅地防災マニュアルの解説」(《証拠略》)と前記「斜面安定工指針」(《証拠略》)によつた。

右計算に必要な土質条件として、盛土材料の物性値については、原地盤の地表面付近の粘性土と基礎層である秩父古生層の岩屑の混合材料となるため、その粘性土と岩屑の混合率を変化させて六種類の試料を作成して、締固め試験、三軸圧縮試験により、これを定め、また、切土の物性値については、軟岩を基準としてこれを定めた。

右計算式と土質条件による安定計算の結果は、次のとおりであつて、右「斜面安定工指針」の定める最小安全率(常時Fs≧1.5)及び前記「大規模開発審査基準」に基づく、県の指導値(常時Fs≧1.2度地震時Fs≧1.00)のいずれも上回つている(《証拠略》)。

盛土部

常時 Fs=1.87~2.05

地震時 Fs=1.25~1.37

切土部

常時 Fs=2.94~9.54

地震時 Fs=2.19~6.13

右地震時とは、地震時水平深度K=0.15(深度{5}程度の地震に相当する。)

なお、右のうち、調整池C-3の上流盛土部については、

常時 Fs=1.870

地震時 Fs=1.249であるところ、調整池C-4の上流盛土部は、右C-3の盛土と同条件の材料を使用し、かつ盛土の高さがC-3の盛土より低いことから、右C-4の盛土は、C-3の盛土斜面が保有する以上の安全性を有しているものと認められる(《証拠略》)。

ロ 以上のように検討、設計したうえ、施工にあたつては、実際の切土地盤から礫混り粘土と破砕風化礫を採取し、大型三軸圧縮試験によつて各盛土材の剪断強度を求め、設計盛土法面の安定を確認している(《証拠略》)。

(4) 盛土法面の崩壊防止

イ 盛土の小段には排水溝を設け、すみやかに表面排水を行うとともに、原地山表面付近に地中内排水管(盛土内の地下水を上昇させないための集水機能をもたせた排水管)を布設し、浸透水の排水を行つている。

ロ 調整池の上流に位置する盛土の法留擁壁として盛土の最下部に土留堰提を設置している(その位置は《証拠略》)。この堰提は、法尻の安定を増強する方法として、宅地、ゴルフ場等の造成工事において広く用いられている構造(《証拠略》)であつて、調整池の満水時(HWL)においても盛土法面が洗堀されない高さとするとともに、その基礎は岩着として、安定性を確保している。

ハ 雨水等による法面の浸食防止のため、造成後早期緑化種などによる種子吹付け、張芝、植栽等を行つて法面保護をする。

3 調整池に決壊の可能性はない。

(一) 堰堤は安全である。

(1) 各調整池は、県砂防課の指導により、砂防ダムに準じた重力式コンクリートダム(ただし、C-12ないしC-14の各調整池は容量が少ないことなどのため、沈砂池構造で、重力式コンクリートダムとしていない。《証拠略》)とし、かつ、その設計については「建設省河川砂防技術基準(案)設計編{2}(《証拠略》、県の構造基準の「河川砂防設計基準(案)」も、調整池については同様である。)によつている(《証拠略》)。

なお、調整池の排水構造として、水通し(余水吐。設計満水位-HWL、すなわち、異常降雨時には三〇年確率降雨による洪水調整容量が満水となる水位-以上となる場合に雨水を放流するもので、その断面は、県指導の砂防事業実施基準-《証拠略》-に準拠して一〇〇年確率降雨時の流出量に対して二〇パーセントの余裕を見込み、さらに非越流部まで六〇センチメートル以上の余裕高をとつている。)及びオリフィス(放流口。調整池からの許容放流量を調整池下流へ流出するためのもので、その断面は、設計満水位からオリフィスの中心までの水圧と許容放流量によつて決定される。)を設けている。(《証拠略》)。

(2) 債務者は、堤体(あらかじめ地形測量を実施して概略設計を行つて、調整池の位置を決定)の軸線上の左右岸及びほぼ中心位置の三か所(ただし、C-12ないしC-14の調整池については、中心位置一か所。《証拠略》においてボーリング調査及び標準貫入試験(N値の調査)を実施した(《証拠略》。調査の必要性については、前記「調整池技術基準」、《証拠略》)。

その結果得られたコアー(《証拠略》)を参考として、基礎岩盤をCMクラスの軟岩と評価した(砂防設計公式集七七頁、《証拠略》)。そして、右岩級による許容支持力(一平方メートル当り一二〇トン)及び剪断強度(一平方メートル当り六〇トン)などを判定し(《証拠略》)、これに基づき、各調整池が三〇年確率降雨時に満水となつた状態における荷重条件下で「転倒」「滑動」「地盤の支持力」の安定計算を行ない(計算方法は、前記の「砂防技術基準(案)」による。)、いずれも安全であることを確認している(調整池水位は常時水位、震度{5}程度の地震等を想定しても十分安全である。《証拠略》)。

また、債務者は、前記貫入試験の結果、調整池予定地中の岩盤上部の風化部分(N値五〇以下)を除いた調整池の堤底部分の岩盤のN値は五〇以上であつて、支持基盤として良好であると判定した。そして、さらに県砂防課の指導によつて、基礎は岩盤へ一・五メートル以上の根入れを、袖部は岩盤の場合には一・五メートル以上、土砂層の場合には三・五メートル以上の嵌入を行うものである(《証拠略》)。

(3) 実際の堤体施工にあたつては、地盤を堀削しながら岩盤の状況の確認を行い、堤体床付け位置で破砕帯等が存在しないこと及び推定岩盤と同程度のCMクラスの岩盤が出現していることを確認している。そして、露出させた岩盤については、埼玉県の中間検査として、県建築指導課の工事検査員によりその岩盤検査が行われ(平成四年三月三日にこれが終了)、その承認を得たうえで、堤体の施工をした(《証拠略》。なお、調整池C-1ないしC-8について、債権者において基礎地盤の安定性を数値で確認する方法として堤体底付け面の岩盤上で平板載荷試験を実施したが、その試験結果の数値はいずれも必要支持力を上回るものであつた。)(《証拠略》)。

(4) さらに、後記(3(二)の(1))のように設計図書の誤りによつて完成ずみの調整池の洪水調整容量が不十分であつたが、各調整池の堤体と土留堰堤については設計図書どおりで、安全性になんら問題がないことが県によつて確認された(《証拠略》)。

(5) 債権者らの主張(二、3、(一)の(2))のクラックの発生等は、以下のとおり、基礎地盤の剪断抵抗力等の不足によるものではない。

債権者ら主張のコンクリートの縦の接合部分は、コンクリートダムの工法上、コンクリートの硬化時の収縮、気温の上下によるコンクリートの収縮に対処するために必ず設けられる、収縮目地(横継目。ダム軸に直角)であり、コンクリートの硬化後に多少の間隙が必然的に生ずるものであり(そのために止水板を入れるなどして、十分な止水性が保たれている。)、何ら瑕疵ではない。また、その主張の横の接合部分は、工法上打継目といわれるものであつて、そのコンクリートは完全に密着しており、安定性、水密性になんら問題はない。

債権者ら主張のひび割れは、右の調整池の満水位(HWL)より上の部分について縦継目を設けなかつたためにその箇所に発生したものであつて、なんら調整池の安全性を害するものではない(なお、美観の観点から、その補修を了し、また、C-9、C-10の後に建設したものについては、縦継目を袖天端--堤頂--まで設けている。)。(《証拠略》)

(二) 調整池の調整容量は十分である。

(1) 変更計画による洪水調整容量・堆砂量と補正工事

債務者は、各調整池の建設につき、県の基準、行政指導に従つて、変更計画において別表「調整池容量に関わる数値のまとめ」(なお、《証拠略》)のとおりに計画し、その許可を受けて施工した。ところが、平成四年一〇月以降、完成した調整池C-4の現地調査を実施したところ、設計図の誤りによつて、右の洪水調整容量を下回つていることが判明したので、これを県に報告し、その後、完成ずみの調整池全部について県の現地測量を受けるなどし、これに基づき、債権者主張どおりの補正工事の内容、時期等について県の関係各課との間に協議が成立したので、県の了承のもとに平成五年四月二〇日から補正工事に着手した。そして、同年七月二九日現在においては調整池の補正工事がほぼ完了した(《証拠略》)。

(2) 堆砂量につき

イ 県において、右の算定は「大規模開発審査基準」に従うよう指導しているところ、債務者は、右基準の定める貯砂量の推定式(基礎係数として、造成中は一ヘクタール当り四〇〇ないし六〇〇立方メートル、造成終了後は盛土部につき年一ヘクタール当り一〇〇ないし二〇〇立方メートル、切土部につき右盛土部の三分の一、などとする。)の各上限値(六〇〇、二〇〇、六六立方メートル)を採用して計算している(この計算の結果、造成中と造成後の各推定堆砂量のいずれか大の方を採用)(《証拠略》)。これにより、調整池C-4の計画堆砂量は、二七四二立方メートルと算定されたものである(計算式は、《証拠略》)。

ロ 仮に、債権者らの主張の「調整池技術基準」によるとしても、上限値を採用すべき根拠はなく、また、各調整池内の堆砂量の計算には、開発全区域七〇・〇五ヘクタールを基準とするものではなく、各調整池の集水区域の面積を基準とすべきであり、さらに、工事期間中の流出土砂は、その堆積状況から必要な時期に除去できるものであるから、無条件に三年の期間を設定し、その間の堆砂量をもつて、直ちに計画堆砂量とすべきであるというのは誤りである(《証拠略》)。

(3) 洪水調整容量につき

イ 右に関する県の基準として、「開発行為における調整池設置要綱(県土木部)」と前記「許可基準運用細則」がある。前者は、県内における開発地域別の洪水調整容量図(以下「本件容量図」という。)とこの調整容量の計算式及び調整池からの許容放流量を定めており、右容量図によると、本件造成地の洪水調整容量は流域面積一ヘクタール当り一二〇〇立方メートルとされている(《証拠略》)。後者は、調整池の調整容量につき三〇年確率降雨時にその下流河川の流過能力の値まで調節できるものであることを規定している(《証拠略》)。

ロ 変更計画における設計洪水調整容量

前記「調整池設置要綱」に定める算定式(この算定式は、調整池造成関係の技術基準として一般的に認知されている「大規模宅地開発に伴う調整池技術基準(案)一一条」によるものであり、前記「許可基準運用細則」所定の調整容量の要件を充足するものである。)に従い、その計算の基準となる流出係数については、各調整池につき、造成地(開発区域内の造成地)のそれを〇・九、未造成地(開発区域内の自然林及び開発区域外流入区域)のそれを〇・六として計算した。これにより、調整池C-4の洪水調整容量は、八七三三立方メートルとなるものである(《証拠略》)。

ところで、前記「調整池設置要綱」所定の、洪水調整容量一ヘクタール当り一二〇〇立方メートルなる要件については、各調整池の設計調整容量から計画堆砂量を控除(農業用水量があれば、これをも控除)した実際の洪水調整容量を基準として、すなわち、この実際の容量を流域面積で除した数値が一二〇〇立方メートルを超えれば、この要件を充足しているとの判断に基づき、県によつて各調整池の造成が許可されたものである。(各調整池についての、右計算による概算値は、《証拠略》、「変更計画」表の備考欄の記載。調整池C-4は一ヘクタール当り一二九五立方メートル)。

しかして、前記「調整池設置要綱」において、調整池の下流河川の許容放流量につき、三〇年確率降雨時を前提として、比流量は最大一ヘクタール、一秒当り〇・〇五立方メートルと定められており、各調整池の設計もこれに従うところ、債務者は環境影響調査段階で各調整池の下流河川の流過能力を実際に調査して、調整池C-7の水路の一部を除き、各水路の比流量はいずれも右の〇・〇五立方メートルを上回わることを確認しており、右調整池C-7の水路については、その改修によつて、右比流量はかなり上回わる流過能力を確保した(《証拠略》)。

ハ 補正工事についての洪水調整容量

補正工事は、県の指導により、各調整池の洪水調整容量に関する工事に限定し、かつ、洪水調整容量は、単純に本件容量図どおり流域面積一ヘクタール当り一二〇〇立方メートル(変更計画時の指導を変更したものである。前記ロ)を確保するようにして施工した。その補正工事の内容は別表「調整池容量に関する数値整合性のまとめ」の「補正工事後調整池容量」欄のとおりである(右別表の「容量図」とは、本件容量図を指す。「補正工事後調整池容量」の堆砂量のうち変更計画の前記計画堆砂量より増加しているものがあるが、これは、すでに完成した調整池につき、実際の堆砂容量が計画堆砂容量を上回わつていることによる。また、調整池のうち、補正工事の対象外とされたのは、完成ずみの調整池の実際の洪水調整容量が右指導値を達成できていることによる。)。

(以上につき、《証拠略》)

(4) 調整池の調整機能になんら欠陥はない。

債権者ら主張(二、3、(二)の(5))のとおり、平成三年八月の台風一二号来襲の際、余水吐(その上部ではない。)から水が流出したが、それは、建設現場の風倒木がオリフィスに流れ込んでその口を塞いだために生じたものにすぎない(完成時には、当然オリフィスを塞ぐような異物の流入防止施設が設置される。)。右障害物を取り除いた後の同年九月の台風一八号(右一二号に匹敵するような降雨量)来襲時にはなんら異常がなかつた(《証拠略》)。

(三) 調整池の周辺区域等に危険はない。

(1) 債権者ら主張のNO.6とNO.7のボーリング地点に存在する礫混り粘土層(これ自体たやすく流動化するものではないが)は、軟弱な沖積層(Al)とみられるところ、かかる土質層は、右地域及び調整池C-6、7、8、9、10、11の設置予定地域の沢中央の低地部にも存在していた。

しかし、右NO.6とNO.7の地域は、すでに盛土工事を終了したが、その段切り施工の際に右軟弱な土層を除去しており、また、前記各調整池予定地に存在した前記土層は、その各設置工事の際に、調整池の容量確保のためその周囲を掘削して池底を原地盤より堀り込んで、これら軟弱土層を除去したし、他に調整池の周辺に右のような土層は存在しないから、債権者らの主張の斜面崩壊のおそれはない(《証拠略》)。

(2) 債権者ら主張の河川地点における流過能力の調査はしていないが、同地点の比流量を、その主張の流量及び債務者の計算した流域面積を用いて計算すると、右地点の比流量は一ヘクタール・一秒当り〇・二二七立方メートルとなり、前記基準値((二)、(3)のロ。〇・〇五立方メートル)の四倍以上となるから、右地点の流過能力にはなんら問題がない。

(算式)

1.84立方メートル(一秒当りの流量)÷8.11ヘクタール(流域面積)=0.227立方メートル

また、債権者ら主張の地点における一〇〇年確率降雨時の超過量を実際の調整池(余水吐)からの雨水流出量によつて計算すれば一秒当り八〇リットルにすぎず(計算式はFAX送付状一頁)、これによつて、被害が発生するとは考え難い。

4 大気汚染について

(一)  本件使用農薬の安全性

本件使用農薬は、いずれも、農薬取締法における登録農薬であり(《証拠略》)、県の「安全指導要綱」第四条に従つて選定されたものである(《証拠略》)。

ところで、農薬の登録にあたつては、マウス、ラット、ウサギなどの小動物に対し、イその急性毒性(投与経路としては、経口、経皮、吸入が行われる。)、ロ眼及び皮膚に関する急性毒性、ハ急性遅発性神経毒性、ニ亜急性毒性、ホ慢性毒性及び発がん性、ヘ繁殖性、ト催奇性、チ変異原性、その他につき詳細な試験、検討をすることが義務づけられている。右試験は、都道府県の農事試験場や農薬残留研究所等の公的試験機関において、試験の質や整合性を確保するための「安全性評価に関する試験成績を作成するにあたつての指針(ガイドライン)」に従つて行われるものである(右機関自体は、その施設、人容、組織の妥当性、報告書と生データとの整合性、実施された試験と計画書の整合性等に関して、国際的基準によつて厳しいチェックを受け、データの信頼性が保障されるようになつている。)。そして、農林水産省は、その部局である農薬検査所において右の試験結果について、人畜や環境に対する安全性の検討をなし、併せて環境庁及び厚生省の各関係委員会の審査を得て、安全性の面から一定の基準に達したもののみを、農薬として登録するのである。

右の審査過程で、厚生省の「残留農薬安全性評価委員会」において、これらの資料を詳細に審議して、その結果、農薬ごとに最大無作用量(一生涯摂取しつづけてもなんら影響がない量)を求め、さらに安全率をかけて人での許容一日摂取量(ADI)を決定し(これをもとに、各関係機関において、各農薬ごとに食物や食品中の残留許容量や、河川水や上水中の農薬濃度の指針値や水質目標値が定められる。)、また、農林水産省では、使用上、農業上、環境上、保健上悪影響が生じないような基準(安全使用基準)を定めている。

したがつて、登録された農薬については、所定の量基準、使用方法を遵守すれば、人畜に被害を及ぼすことがないものである(《証拠略》など)。

(二)  安全使用

(1) 本件使用農薬の選定、水質目標、使用農薬の月別使用量の計画等は、債務者の環境影響の予測・評価に基づくものであり(《証拠略》)、かつ、「ゴルフ場農薬安全指導要綱」(平成二年九月一七日改正)を遵守し、農薬使用計画の報告、使用状況の記録、保管と報告を行い、安全かつ適正な使用を確保し、農薬の使用による周辺環境保全のための措置等に関する適正使用方針の設定などについては、県の「ゴルフ場農薬の適正使用について」(平成二年二月二七日決裁。《証拠略》)を遵守するものである。

(2) ところで、農薬散布による大気中のその濃度については、国及び埼玉県を含む地方公共団体(ただし、後記(三))では規制がなく、また、各種の調査報告(《証拠略》など)等から、本件使用農薬の使用によつて被害を生ずるおそれがないものと判断できたので、これによる大気中の濃度等について特別に予測・評価をしていないが、農薬の使用にあたつては、周辺環境の汚染の防止のため、次の措置を講じることとしている(《証拠略》)。

イ 病害虫の防除に当たつては、発生状況に即応した効率的防除に務め、農薬の散布方法は、局地散布とする。

ロ 雑草の防除に係る農薬の使用は、原則としてフェアウエイのみに限定する。

ハ 農薬散布は、直接飛散、拡散することがないよう強風時(通常、風速三メートル/秒以上)は避ける。

ニ 散布の前後で降雨が予想される場合には散布を控える。

ホ 風速及び風向については、定点測定のほか作業中にも随時携帯用計器による測定を行う。

(三)  大気中濃度の自主的基準値の設定と監視体制

平成三年に我国ではじめて横浜市において大気中の農薬濃度の基準値が設定されたところ、債務者においても、検討の結果、横浜市基準値を遵守し、そのために、ほぼ次の方法による農薬の大気中濃度の測定・監視体制をとることにしている(現在すでに、地元の小岩井自治会との間でこれを確認ずみである。)(《証拠略》)。

(1) 測定方法

横浜市における大気中農薬の採取・分析方法に準ずる測定、監視方法を確立する。

(2) 測定

イ 測定の場所は、専門家の見解に基づくべく今後検討するが、周辺環境の懸念に対処するものであることから調整池C-4ないし学園寮近接地点か又は小岩井浄水場近接地点のいずれかを検討中。

ロ 農薬の使用に先だつて、債務者が使用を予定する(現在一〇種)農薬について大気中の有無、濃度の測定を行う。

ハ 農薬使用後における測定は、散布対象となるフェアウエイ及びグリーンの農薬対策上重要な時期、すなわち月の散布量の多い時を選び、年に二回実施する予定である。

ニ 測定の仕方は、現在検討中であるが、農薬散布直後とその測定から二四時間後、もしくは二四時間の平均値を得るため適切な時間に二回の測定を予定する。

ホ 測定の種類は、使用農薬の全種類について測定する。

(3) 測定結果

イ 測定結果は、飯能市等の公的機関に報告する。

ロ 測定の結果、仮に横浜市の基準値を超える結果が検出されたときは、直ちに散布を中止し、原因を究明して基準値を遵守できる対策に努める。

(4) 費用

債務者が負担して運営する。

(四)  本件造成地は大気がフェミゲーションとなるような地形ではないし、また、散布予定農薬がエーロゾルとなつて大気中に浮遊することもない。

(1) 粒径二〇〇マイクロメーターの粒体を、風速三メートル/秒で高さ三メートルから散布すると、その飛散距離は一二~一三メートル程度にすぎないことが明らかである(《証拠略》の表4・5の係数によつて換算)ところ、債務者の使用予定の農薬は、水和剤(八種類)及び乳剤(一種類)を水で希釈したものを二〇〇マイクロメーターほどの水滴状粒子にしてスプレーヤをもつて下方に噴霧して使用する液剤と、粒径二九七~一六八〇マイクロメーターの粒剤(一種類)であつて、債務者はこれを地上から数十センチメートルの高さから芝草面に向けて散布するものである(《証拠略》)から、その散布にともなつて広範囲に、即ち、散布場所から水平距離にして約二二五メートル離れた学園にまで(《証拠略》)飛散することは考えられない。

(2) 債権者ら主張のフェミゲーション現象下で大気汚染物質が滞留するなどの状況が生ずる前提条件としては、大気中の物質が一〇マイクロメーター以下の小さい固体粒子であるか、又は、気体であることであるから、それより遥に大きな粒径をもつ前記水滴ないし粒体については、長くても数秒以内に地表に落下し、エーロゾルとなつて大気中に浮遊することはない。

(3) 債権者らは、一か月当り散布農薬全部の九〇パーセント以上が散布直後の一日の間に揮発することを前提として大気中の濃度を主張するが、これは、極めて非現実的である。

また、右揮発率の《証拠略》は、南インドという高温、多降雨の熱帯地域における水田への散布であり、本件ゴルフ場の立地条件、高密度に被覆した芝草への散布といつた条件と全く異なるものであるから、右証拠はなんら価値はない(《証拠略》)。

(4) また、債権者ら主張の他のゴルフ場との間の大気の複合汚染を生ずることのないのはいうまでもない。

5 水質汚染について

(一)  農薬の散布

(1) 債務者は、前記(4、(二)の(1))のとおり、使用予定農薬の、ゴルフ場排水口、すなわち各調整池の排出口における流出濃度に関して環境影響の予測・評価をしたが、これによる水質目標及び監視体制は、次のとおりである。

イ 水質目標値(各調整池排出口におけるもの)

右目標値については、本件ゴルフ場は環境影響評価の変更時においては、既設ゴルフ場に該当した(別表「排出水に係る水質目標値」の表に記載どおりの目標値の適用を受ける。)が、自主的に県の安全指導要綱に水質指針値の定めあるものは、その一〇分の一の値を、その定めのないものは、ADIを基に計算した値(別表「使用予定農薬の最大流出濃度等一覧表」{3}欄のトップジンM、サンヤード、スタッカー及びオルトラン)を達成することとした(《証拠略》)。その後、平成三年一一月六日安全指導要綱の改正によつて、サンヤード及びスタッカーについて目標値が定められたのであるが、その目標値は十分達成可能であるし、さらに、技術的検討を加え、開場後に現実に排出するときには、その一〇分の一の値を達成できるものと推測している(《証拠略》)。

ロ 監視体制

債務者は、調整池(C-10とC-11を予定)からの排出水について定期的に(年四回を予定)その排出口で水質検査を実施し、かつ小岩井地区内の定められた四か所の井戸水及び入間川下流河川に対して、定期的に水質検査を行つて(後者については年二回以上、その検査の委託、時期・採取場所は、市及び県と協議して定める。)、いずれもその結果を公的機関に報告することとし、これを、関係地区住民や飯能市等に対して確約している(《証拠略》)。

また、調整池(C-7、C-16など)にコイ、フナ等の放流飼育を予定して水質の管理を行うことにしている。(以上につき、《証拠略》)

学園は、小岩井自治会の構成員であつて、債務者のこれらモニタリング、その他農薬の使用状況、検査結果等については最優先にフォローできる関係にある(《証拠略》)。(なお、公的機関による水質検査としては、県の西部環境管理事務所において開設後のゴルフ場に対し、環境庁等の指針値に基づく三〇種農薬について、年四回の水質検査が行われている。また、飯能市においては水道源水とゴルフ場排出水についてそれぞれ環境庁の指針値のもとに水質検査を年四回ほど実施している。)

(2) 散布された農薬は、その大半が表層土壌中に保持され、次第に分解消失し(本件造成地の地下三〇センチメートル以深に埋没される排水管までにも浸透する量は極めて少ない。)、人体に影響を与えるような高い濃度で地下水に混入することはあり得ない(《証拠略》)。

(二)  化学肥料等の散布、使用

(1) 債務者は、植栽した芝の管理育成の限度において化学肥料の使用を予定しているところ、これについて、環境影響の予測をし、水質汚染等のおそれがないものと評価できたのであつて(《証拠略》)、この使用によつて、債権者らに被害を及ぼすことはあり得ない(《証拠略》)。

(2) 地盤凝固剤は使用しない。すなわち、債務者が調整池の基礎地盤の透水試験をした結果、その止水対策は不必要であつたので、右薬剤を使用せずに、平成四年四月までにすべての調整池の造成工事を終了したし、他にこれを使用する必要も予定もない。

(3) 農薬の補助成分としての合成界面活性剤については、農薬登録の際にその製剤とともに毒性の評価が行われており、主成分の農薬の使用基準に従うかぎり安全である(《証拠略》)。

クラブハウス内で使用する、洗剤としての界面活性剤を含む排水については、三次処理をしたうえで、場内で芝散水に利用することにしており、区域外の河川への放流はしない(《証拠略》)。

(三)  複合汚染は考えられない。

債権者ら主張のゴルフ場と本件ゴルフ場は、それぞれ一級河川と市街地をもつて、又は分水嶺などをもつて、気流・水系を別にしており、その位置的、距離的関係からも、それぞれなんらかの条件が相互に影響し合うということはあり得ない。

三 被保全権利について

債権者ら主張の環境権、自然享有権、学習環境権、及び教育権は、内容が不明確であり、かつ実体法上の根拠はなく、被保全権利たり得ない。そして、人格権については、債権者らの生命、身体に対する侵害の虞れのないことは前記のとおりであるから、これをもつても、工事の差止めないし農薬等の散布・使用を禁止できない。

四 仮処分の必要性について

本件申立が認容されるにおいては、債務者の出捐した、本件土地の権利取得ないし造成に要する莫大な費用等を無駄にさせ、かつ債務者の役員・従業員(現在一七名)とその扶養する家族らの生活権を奪うことになるのであつて、その被る損害は、質、量ともに、債権者らのそれを遥に上回るものである。したがつて、これを考慮すれば、未だ仮処分の必要性は認められない。

第三  判断

一  請求適格

債権者ら主張三の自然享有権、環境権、学習環境権及び学習環境権を実現させることを内容とする教育権は、私法上これを第三者に対する排他的権利として認めるべき根拠はない。また、その主張のように、仮に、生徒の父母と学園との間で、自然との共生を教育内容とする契約が締結されていたとしても、これにもとづき債務者の行為を排除できるものとはいえない。したがつて、右各権利を理由とする本件申立は、不適法として却下すべきである。

したがつて、本件申立については、人格権侵害の有無についてだけ判断することになる。

(生徒の父母である債権者のうち、右教育権のみを主張する者、すなわち債権者目録記載Cの債権者のうち、<1>、<2>、<3>の印のない者については、もはや以下の判断の対象外となる。)

二  主位的申立

1  債権者らが、健康等被害発生の原因としてその差止めの対象としている工事は、現在、樹木伐採について、計画の約九七パーセント、切土・盛土について、約九四パーセント、調整池工事について約九九パーセント(残つているのは、調整池C-1、C-11の補正工事の法面保護工事のみ)終了しており、残存部分の工事を続行させることが危険を発生ないし増加させるものとはいえず、これを差し止めるにおいては、かえつて、土砂崩壊等の危険のおそれがあると推測できる(《証拠略》)。そして、農薬、化学肥料等の散布、使用等は、本件ゴルフ場の造成工事自体とは直接関連する問題ではない。したがつて、造成工事の差止請求は、もはやこれを求める利益を欠くものとみるべきであるから、主位的申立は却下を免れない。

2  なお、本件審理の経緯に鑑み、以下、本件争点(1)ないし(3)(債権者の主張一、二の1ないし3)について付言することとする。

(一) アセスメント手続の違背等(債権者らの主張一)について

右手続きの違背とか、環境影響の予測・評価の不十分ないし不当は、これをもつて直ちに差止請求の根拠とはなし得ないと解するのが相当であるから、この点に関する債権者らの主張は、それ自体失当である。

(二) 自然環境の破壊(同二の1)について

右の主張は、前記却下すべき各請求権の内容ないし理由付けの事実であると解されるから、主張自体失当というべきである。

なお、仮に、人格権侵害の理由付けの趣旨のものであるとしても、その主張の自然破壊が直ちに人格権侵害の蓋然性に結びつくものとはいえないから、やはり失当というべきである。

(三) 切土・盛土等の土砂崩壊、調整池の決壊・洪水、調整池周辺部分の斜面崩壊の危険性(同二の2、3)について

本件全資料によつても、右危険性は疎明できず、かえつて、その安全性が一応認められる。

(1) 本件切土・盛土工事及び各調整池の造成は、債務者主張(二の2、3)のとおり、県の行政指導に従つて、一般的に認知されている各種技術基準に基づき、設計、計算に十分な検討がなされ、さらに、施工段階でその安全性を確認しつつ工事を行つたものである(各該当事項ごとに掲記した証拠による。また、乙第九七号証は、本件造成工事は安全・適切である旨の鑑定をしている。)。

しかして、当該造成工事が、右のように、行政指導を遵守し、一般的な技術基準に従つて設計、施工されているときは、右基準自体が不当であるとか、当該工事については、この基準に従うのみでは、まだ安全性が確保され難いなどと認められるような特段の事情が疎明されないかぎり、右造成工事は一応安全であると推定するのが相当である。

(2) 右の特段の事情の疎明はない。

イ 本件造成地はその地質が秩父古生層で、破砕を被つたり節理が発達していること、造成地域付近に名栗断層、越生断層などの活断層が存在し、地震発生の可能性がある(例えば、一九九一年から二〇〇〇年までの間に首都圏のどこかを震源とするM6以上の内陸直下型地震が起こる確率は四〇パーセントであるとの研究がある。)こと等を根拠して、降雨時期や地震発生時には土砂や調整池の崩壊の危険性を指摘する意見がある(債権者ら主張二の2に掲記の証拠)。

しかし、そのような地質の土地はゴルフ場造成地として必ずしも不適とはいえないし(《証拠略》)、その地震発生は、法的には、未だ抽象的な危険発生の指摘にとどまるもので、予見不可能な事柄とみるべきであるから、右意見は、本件造成の安全性を覆すものではない。

なお、右意見は、前記各種技術基準の予想しないような大雨や強度の地震の発生を想定して土砂崩壊等の危険性をも指摘するが、右各種技術基準が関係諸科学の知見に照らして不合理なものであるとは解されない以上、これまた、単に土質工学上における危険発生の可能性の見解にとどまるものであつて、法的に斟酌すべき資料とはできない。

ロ 調整池の安定性の計算につき、債務者が、前認定のとおり(債務者の主張二、3、(一)の(2))、堤体の基礎地盤の岩級区分をCM級と判断して、許容支持力、剪断強度を検討したことに対し、債務者が地質調査で採取したコアーの状態等を記載した地質柱状図などの検討によつて、「岩質の最良部分がCM級で、大部分はCL級、一部分はD級」とみるべきであつて、債務者の判断は誤つている、したがつて、堤体の安定性の根拠はない、との趣旨の鑑定意見(《証拠略》)がある。

しかしながら、右意見は、ボーリング調査段階の調査書の記載に基づくものにすぎないところ、右調査段階における債務者の判断もやはり土質工学上の分類基準に従つているものと解されるのであつて、特段不当、不合理ではないし(《証拠略》)、前認定のとおり(前同二、3、(一)の(3))、債務者は施工過程で現実に岩盤まで掘削して風化部分を除去して基礎岩盤の状態を検討して岩級を判断しているうえ、平板載荷試験を実施して十分な地盤支持力を有することを確認している(《証拠略》)のであるから、前記意見もまた、未だ堤体の安定性に疑念を生じさせるものではない(なお、仮に基礎地盤の岩級をCL級とみて、調整池C-4について安定計算した結果によつても、その安全性が十分確保されていることが確かめられている。《証拠略》)。

ハ 調整池の堤体基礎地盤の剪断抵抗力等が不足する旨の主張(債権者ら主張二、3、(一)の(2))は、これに対する債務者の主張(二、3、(一)の(5))のとおり、クラックの発生等は基礎地盤の剪断抵抗力等の不足によるものでないことが疎明される(当該箇所掲記の証拠)から、右主張は採用できない。

ニ 調整池の計画堆砂容量が不足であるとの主張(債権者らの主張二、3、(二)、(2)のイ、ロ)については、債務者の算定につき、なんらの不合理も疎明されず、他方、債権者らの計算方法には、債務者主張(二、3、(二)、(2)のロ)どおりの疑念が存すると解される(なお、「調整池技術基準」に則り、堆砂量はその上限値、堆砂年数は一年-工事中一年毎に調整池に堆積した土砂の除去を行う-として計算すると、例えば、調整池C-4の堆砂容量の最大は、一〇九七立方メートルにすぎず、債務者の計算量以下となる。債務者は流域内の造成工事期間が一年を超えるときは、一年内に調整池内の堆砂を除去している。以上は、FAX送付状五頁以下)。したがつて、前記主張もまた採用できない。

ホ 調整池調整容量が不足する旨の主張(債権者ら主張二、3、(二)の(3))は、債務者の計算方法を誤解し、この誤解を前提としてのものであることは、この点に関する債務者の計算方法(二、3、(二)、(3)のロ)に対比して明らかである(FAX送付状二、三頁)から、とうてい採用できない。

ヘ 調整池の調整機能の欠陥の主張(債権者ら主張二、3、(二)の(5))の理由のないことは、この点の債務者の主張(二、3(二)の(4))によつて明らかである。

ト 調整池造成による、周辺地域等の危険性の主張(債権者ら主張二、3、(三))についても、次のとおり、これを採用できない。

あ 調整池周辺地域の危険性(同(三)のイ)については、これに対する債務者の主張(二、3、(三)の(1))どおり疎明できる(当該箇所掲記の書面、乙号証)。

い 下流河川の流過能力の主張(債権者ら主張二、3、(三)の(2))については、債権者ら主張の流量、流域面積によつても、その主張地点の比流量は県の定める基準値(一般的に認知されている技術基準である。)を上回つており(債務者主張二、3、(三)の(2)。審尋の全趣旨)、かつ、百年確率の降雨は極めて希有のことであつて、河川の流過能力につき、右基準がこれを前提としていないことをもつて、不当であるとはいえないから、関係調整池(C-4)の造成は被害を発生させる蓋然性のあるものとはいい難いところである。

チ 他に、前記特段の事情を疎明すべき資料は存在しない。

(四) 以上のとおりであるから、本件造成についてはその工事着手当時から工事差止めを求める理由を疎明でき難いものであつたというべきであり、なお、現在完成ずみの前記造成部分については、その安全性が一応推定されるものといえる。

三  予備的申立

1  債権者らは、本件使用農薬を含む農薬全部(農薬取締法上の登録農薬全部と推測する。)の散布の差止めを求めるが、債務者においては、本件ゴルフ場で散布するのは本件使用農薬に限定している(それ故に、環境影響の予測・評価もこれに限つている。)ので、本件使用農薬以外の農薬についての差止請求は、その利益を欠くものであり、却下を免れない。以下、本件使用農薬に関して検討する。

2  大気汚染について

以下のとおり、本件全資料によつても、債務者の農薬使用が債権者らの健康等に被害を及ぼす蓋然性を疎明することができない。

(一) 債務者主張二、4の(一)の事実、すなわち、本件使用農薬は、所定の量基準、使用基準に従つて使用するかぎりは、現在の関係知見上、人体に害を及ぼすことのないことが一応認められる(該当箇所掲記の証拠)。

しかるところ、甲第九八号証(スミチオンがウサギの造精機能に、マラチオンがサルの造精機能にそれぞれ障害を発生させたとする実験例)、甲第一〇一号証(後記(三)。なお、甲第一八五号証、「化学物質過敏症」に関する一般的な解説書であるが、「農薬がアレルギーを増悪させる」旨の例として、この実験例を引用している。六七頁)、甲第一〇三号証(数種類の農薬のミカヅキモの生殖機能に及ぼす影響についての実験から、本件使用農薬関係ではスミチオンが障害を発生させることが明らかとする。)などは、登録農薬についての許容基準は人にとつて安全ではないとするものであるが、右認定の、登録申請の際に必須的に行われる各種試験(農薬の眼に対する試験及び連続投与による免疫学的試験も登録の際に必須のものとされている。《証拠略》)、これに基づいての関係知見によるADIの決定等の過程に鑑みると、右各証拠は未だ、このADIないし、これに基づいて定められた各種基準値(後記認定の水質目標値等を含む。)の安全性を左右するにたりず、他に右安全性に疑念を生じさせるべき証拠はない。

(二) 大気中農薬の許容濃度

国、地方公共団体(横浜市以外)とも、右許容濃度の基準を定めてはおらず、これを定めている例としては、債務者が遵守を約している、横浜市基準値のほか、次のものがあるにすぎない(《証拠略》)。

イ 財団法人日本産業衛生学会(日本医学会の分科会)が、労働者の作業環境要因による健康障害を予防する目的から、所属の毒性関係者による専門委員会において、一二種の農薬につき、一日八時間、週六時間常時大気中の農薬を一生吸入し続けても、健康上問題とならない許容濃度を定めてこれを勧告している。

ロ 財団法人農林水産航空協会(農林水産省の定めた「農林水産事業促進要綱」に基づいて設立された団体で、その事業につき同省の監督を受ける。《証拠略》が、平成三年三月、航空散布地区周辺地域の生活環境の保全を目的として現時点で利用可能なイヌ及び小動物等に関する内外の毒性学の知見をもとに、右イの「許容濃度の勧告」を基礎資料として、さらに医学、生物学、農薬の専門家からなる研究会で検討したうえで、イと同じ一二種の農薬につき、その空中散布の場合の大気中の許容濃度指針値(上限値)を定めている。

右イ、ロの許容濃度、指針は、本件使用予定農薬の関係では、フルトラニールとスミチオンの二種についてだけ定めている。

フルトラニール

イの許容濃度一〇

ロの指針値 〇・二

(横浜市指針値 〇・二)

スミチオン

イの許容濃度一・〇

ロの指針値 〇・〇二 (横浜市指針値 〇・〇一) 単位は、いずれもミリグラム/立方メートル

しかして、右ロの指針値は、その採用目的、数値の確定方法等に鑑みると、他に特段の資料のない本件においては、一応妥当なものとみるべきである。したがつてまた、右二種の農薬につき、右指針値と同一ないし、より厳格である横浜市基準値も妥当であるといえる。

(三) 債権者らは、乙第一〇一号証の実験値と、債権者ら計算の気中濃度に基づいて、使用予定のスミチオンが債権者らの健康等に被害を発生させる旨主張するところ(二、5の(二)、(三)。右の実験は、花粉症の抗体を注入したモルモットにつき、一定量のスミチオンのみを静脈注射したものと、右スミチオンの注射とともに花粉を点眼したものと比較して、前者についてはとくに反応はないが、後者については、スミチオンの投与量が6×10(-5乗)ミリグラム/キログラムで、アレルギー性結膜炎の増悪が認められたとするもの)、確かに、本件において右実験そのものを批判すべき資料はなく、学園の所在する地域に接地気温逆転層が形成される趣旨の鑑定意見等(《証拠略》など)や本件使用農薬もエーロゾルとなつて大気中を浮遊する旨の意見(《証拠略》)がある。

しかしながら、次の理由によつて右主張は採用できない。

イ 右実験は、スミチオンを直接静脈注射するものであるが、それと同じ量を吸入した場合にも同じ反応を示すかどうか疑問である(《証拠略》)。また、右実験値をもつて直ちに人に対する危険値とはなし難い(《証拠略》)。

ロ 農薬散布の大気への拡散、揮発率が九〇パーセント以上であることを前提とするが、これを疎明すべき資料はない(この点に関する、甲第一二五号証を採用できないことは、債務者主張のとおりである。二、4、(四)の(3))。

(四) 他に、本件使用農薬につき、大気吸入、経皮による健康等、被害の蓋然性を疎明するにたりる証拠は存在しない。そして、農薬を使用して、栽培された樹木、芝草などが本件造成地に植栽されることにより、これに付着している農薬が大気中に蒸発、拡散することがあり得る(予備的申立(二))ことを考慮しても、同様である。

そして、本件全証拠によつても、債権者ら主張(二、4の(五))の大気の複合汚染による被害発生の蓋然性を疎明することはできない。

(五) 監視体制

本件使用農薬の使用にあたつては、債務者主張二、4、(二)の(1)の県の行政指導を遵守し、同(2)の使用方法によるべきであることは当然であるが、そのうえ、債務者が自主的に、横浜市指針値と同じ基準値を遵守し、かつそのために効果的と認められる監視体制の実施を約している(同4の(三))ことは、関係住民の懸念(環境影響評価の手続段階でも大気汚染を危惧する意見が述べられていた。《証拠略》)の解消、或いは安全使用指導要綱第六条に定める「被害防止対策の徹底」の趣旨からみて、一応評価できる方策といえる。

3  水質汚染について

本件全資料によつても、農薬、化学肥料等の散布、使用による健康等、被害の蓋然性を疎明することはできない。

(一) 農薬について

(1) 水質目標値を達成することは可能である。

イ 本件使用農薬に対する県の安全指導要綱の水質指針値(本件ゴルフ場は、同要綱所定の「水道水源となる河川の取出口上流に排出するゴルフ場に該当するから、債務者に対する規制は、原則的指針値の二分の一となる。別表「排出水に係る水質目標値」の欄外の記載、《証拠略》)及びADIが人の健康を保護するうえで、現在の知見上、一応合理性があるとみるべきことは、前認定のとおりである(2の(一)。なお、環境庁水質保全局長通達-第二、四、2、(一)の(1)-の指導指針の運用の考え方等に関する、平成二年六月一四日同局土壌農薬課長から都道府県行政担当部課長宛通知において、指針値の根拠として、この趣旨を明記している。《証拠略》)。

そして、債務者は、自主的に、右水質指針値より厳格な水質目標値を設定している(債務者主張二、6、(一)、(1)のロ)。

ロ しかして、債務者の自主的設定の水質目標値

(平成三年九月の環境影響評価の変更当時のもの。別紙「使用予定農薬の最大流出濃度等一覧表の{3}欄。《証拠略》)は、環境科学の知見に基づくアセスメント手法《証拠略》に則つてなした、本件使用農薬の流出濃度の予測計算を根拠とするものであるところ、その計算条件・計算式等はすべて環境影響評価書、同変更書に明記し、環境影響評価技術審議会の検討を経ており(《証拠略》)、その予測計算は適切であつて、右自主的水質目標値の達成も可能であると推定される(《証拠略》。平成三年一一月六日改正による安全指導要綱で新たに定められた、サンヤード、スタッカーの水質目標値-本件ゴルフ場に対しては、その二分の一-についても、債務者の予測による各最大流出濃度からみて十分にこれを遵守できるものと推定できる。前同表{1}、{4}欄)。

ところで、債務者は、本件使用農薬の最大流出濃度の予測計算については、月別の各農薬使用量、降雨日数等を基準とし、月別の各使用予定農薬(成分)は月別の降雨日毎に平均的に流亡するものと予測しているところ(その計算式は、《証拠略》)、最大限安全側に予測して、月別使用予定農薬の全部が降雨日一日にすべて流亡するものと仮定して濃度計算をすべきであるとの意見(計算式、その余の基礎係数は債務者の手法どおり)がある(《証拠略》)。

しかしながら、前記マニュアルにおいては、年別の各農薬使用量、平均降雨日数を基準として、右農薬は年別の降雨日毎に平均的に流亡するものと予測している(《証拠略》)のを、債務者においては、一年を通じて毎月農薬を使用するものではない(別紙「農薬の使用計画表」参照)から、右予測をより各農薬の使用実態に合わせて合理的に修正して前記予測をしたものであり、他方、前記意見の予測が一般的に農薬の流亡の実態に照応するものであるとの証拠はなんら存在しないところであるから、右意見は、債務者の流出濃度の合理性を左右するものではない。

ハ 散布された農薬が大気中に蒸発し、これが降雨等によつて小岩井浄水場の露天プールに落下することが仮にあつたとしても、それによつて同浄水場の水が水質目標値以上に汚染される、とする証拠はなんら存在しない。

ニ また、農薬を使用して栽培された樹木、芝草などが本件造成地に植栽されることにより、これに付着していた農薬が降雨、散水に混入することがあり得る(予備的申立(二))としても、そのために、調整池の水の濃度が水質目標値を超えるというようなことはとうてい考えられない。

(2) 水質の管理について、債務者が遵守しようとする措置、そして、これを、関係住民との間で協定している(債務者主張二、5、(一)、(1)のロ。協定の締結の点は、該当箇所の証拠)ことは、妥当な手段であるといえる。

(3) 散布された農薬で調整池へ流入しなかつたものが水質目標値を超える濃度で地下水に混入して河川に流入する蓋然性は、本件全証拠によつてもこれを疎明することはできない(地下水にたやすく混入する趣旨の甲第一五号証-三七頁ないし三九頁-は、《証拠略》に対比して採用できない。)。

(二) 本件全資料によつても、債務者使用予定の化学肥料の散布、農薬に含まれた界面活性剤・本件ゴルフ場で使用されるそれ(洗剤等)が債権者らに対し被害を惹起させる蓋然性を疎明することができない。

また、債務者においては地盤凝固剤を使用する計画を有していないことが一応認められる(審尋の全趣旨)。

(三) 水質の複合汚染を疎明すべき証拠はなんら存在しない。

4  以上のとおり、本件使用農薬等の散布・使用等によつて、債権者らの健康等に被害を及ぼす蓋然性があるとはいえないから、予備的申立も失当として排斥すべきである。

(裁判長裁判官 山之内一夫 裁判官 前田博之 裁判官 佐藤洋幸)

《当事者》

債権者 加賀美幹雄 <ほか一七八名>

右債権者ら訴訟代理人弁護士 尾林芳匡 同 田中重仁 同 村田光男

債務者 株式会社西武飯能カントリー倶楽部

右代表者代表取締役 小山安三

右債務者訴訟代理人弁護士 原 誠 同 小島敏明 同 橘 節朗 同 楠 忠義

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